企業のAI導入とは?進め方の結論と導入状況
企業のAI導入とは、業務の一部をAIに任せる取り組みで、任せる業務選びから始めます。ツールを先に選ぶと使い道が後から決まり、現場に定着しにくくなります。置き換える業務を先に決めれば、必要な機能とデータは自然に絞られます。
この記事は、自社でAI導入を検討し始めた経営者・事業責任者・DX担当者の方に向けて書いています。私たち株式会社くるみは、AI導入の支援で業務の棚卸しから定着までを5工程で回しています。依頼先を含めた全体像は、詳しくはAI導入支援の内容と選び方をご覧ください。
要点は、用途で探す、5工程で進む、弱点を分ける、残る力で選ぶの4項目です。結論は「ツールより業務が先」の一文にまとまります。

- 用途で探す:他社の事例は業界ではなく用途で見て、自社の業務に読み替えます。
- 5工程で進む:課題を決めるところから本格展開まで、順番を飛ばさずに進めます。
- 弱点を分ける:AIの弱点を、待てば解決するものと待っても残るものに分けます。
- 残る力で選ぶ:依頼先は、支援が終わった後に社内へ残る力で選びます。
企業のAI導入状況(2026年9月時点)
国内企業のAI導入は広がっているものの、海外と比べると慎重な傾向です。総務省の情報通信白書は、日本・米国・ドイツ・中国の企業へのアンケート結果を載せています。
生成AI(文章や画像を新しく作り出すAI)の活用方針を定める日本企業は、前年度より増えました。一方で、他国と比べると比率は低い傾向が示されています(総務省 令和7年版 情報通信白書)。
企業規模で見ると、中小企業は「方針を明確に定めていない」という回答が目立ち、大企業より方針づくりが遅れています。生成AIを導入する企業の使い道は、メールや議事録、資料作成の補助といった身近な業務が中心です。いずれも2026年9月時点で参照した令和7年版の記述です。
AIで実現できることと導入のメリット
AIが得意なのは、文章の作成と要約、画像や音声の認識、データからの予測、問い合わせへの応答です。メリットは、定型作業の時間を減らせること、判断の材料を早く揃えられること、人手不足を補えることにあります。ただし効果が出るのは、任せる業務が具体的に決まっている場合です。
AI導入企業の一覧:業界別・部門別の活用事例
AIの導入は製造から金融、建設、小売、コールセンターまで幅広い業界に広がっています。任せている業務は、検査、予測、検索、要約のように、用途で見ると数種類に集約できます。AI導入企業の一覧を探すときは、企業名より用途に注目すると自社に当てはめやすくなります。
下の図は、公開されている企業のAI活用事例を、業界と用途で整理したものです。製造は外観検査と知識の共有、金融はリスク分析と手続き支援というように、業界ごとの代表的な用途を並べました。

- 製造:外観検査(製品の見た目をカメラ画像で確かめる検査)で見落としを減らし、知識の共有で熟練者のノウハウを残します。
- 金融:リスク分析で審査や不正検知を支え、手続き支援で事務の負担を軽くします。
- 建設:安全管理で現場の危険を検知し、ナレッジ検索(社内の文書や記録を探す仕組み)で過去の図面や記録を探します。
- 小売・サービス:需要予測で発注や人員配置を整え、顧客対応で問い合わせに答えます。
- コールセンター:音声認識で通話を文字にし、後処理の要約で記録の作成を短くします。
業界が違っても、用途が同じなら自社に読み替えられます。たとえば建設のナレッジ検索は、製造の知識の共有や、バックオフィスの規程検索と同じ仕組みです。同業の事例が見つからないときは、用途が同じ他業界の事例を探してください。
製造業・建設業のAI導入事例
製造業では、カメラ画像で製品の傷や異物を見分ける外観検査が代表的な事例です。熟練者の判断や過去のトラブル対応を文書にまとめ、生成AIで検索できるようにする知識の共有も広がっています。製造業に絞った進め方は、別の記事「製造業のAI導入」で扱う予定です。
建設業では、現場の映像から危険な状態を検知する安全管理と、過去の図面や施工記録を探すナレッジ検索が中心です。どちらも、人の経験に頼っていた確認作業をAIが下支えする使い方です。
金融業のAI導入事例
金融業では、融資審査や不正検知を支えるリスク分析と、行内の手続きを案内する手続き支援が主な用途です。規程や手順書の量が多い業界のため、文書を読んで要点を返す生成AIと相性がよい領域です。最終判断は人が行い、AIは材料の整理を担う形が一般的です。
小売・サービス業とコールセンターのAI導入事例
小売・サービス業では、販売データから売れ行きを見通す需要予測と、チャットでの顧客対応が代表例です。コールセンターでは、通話を文字に起こす音声認識と、通話後の記録をまとめる後処理の要約が使われています。
問い合わせ対応をさらに進めた使い方として、AIエージェント(目的に沿って複数の作業を自分で進めるAI)も出てきました。詳しくはAIエージェント導入の進め方をご覧ください。
部門別のAI活用事例
部門別に見ても、任せやすい業務には共通点があります。手順が決まっていて、入力と出力を文章やデータで表せる業務です。
| 部門 | AIに任せやすい業務 | 人に残す業務 |
|---|---|---|
| バックオフィス | 規程の検索、議事録の要約、書類の下書き | 承認、例外の判断 |
| 営業・マーケティング | 提案書の下書き、顧客情報の整理、広告文の案出し | 提案の方向づけ、顧客との関係づくり |
| 顧客対応 | よくある質問への回答、対応記録の要約 | 苦情への対応、個別事情の判断 |
同業他社の事例だけを探して候補が見つからず、用途で探し直して任せる業務が決まる。これは、私たちが支援の現場でよく見るパターンです。なお、匿名の自社支援記録で第三者未検証の内容です。
企業がAIを導入する5ステップ
AI導入は、課題を決める、業務を選ぶ、データ整備、試験導入、本格展開の順で進めます。前の工程を飛ばすと後の工程でやり直しが出るため、順番を守ることが近道になります。
下の図は、AI導入の進め方を5工程に分け、各工程でやることを一言で示したものです。

ステップ1:課題を決める(困りごとを1つに絞る基準)
最初に決めるのは、AIで解きたい困りごとです。「業務を効率化したい」のような広い目的のままでは、効果を測る物差しが決まりません。「見積書の作成に時間がかかる」のように、現場の言葉で1つに絞ります。
絞るときは、次の観点で候補を比べます。
- 発生する頻度が高いか
- 担当者の負担が大きいか
- 成果を測る方法があるか
ステップ2:業務を選ぶ(任せる範囲を決める手順)
課題が決まったら、その中でAIに任せる範囲を決めます。業務を作業の単位まで分解し、AIに任せる作業と人が担う作業を分けます。私たちは棚卸しの際に、置き換えられる業務かどうかを判定5項目で確認しています。詳しくはAI導入の全体像と業務の棚卸し基準をご覧ください。
置き換える順番は、バーベル戦略(両端に力を寄せ、中間を薄くする考え方)が参考になります。完全に任せられる定型業務と、人が担う判断業務を両端に置きます。どちらとも言えない中間の業務から見直す企業が多いと私たちは見ています。
ステップ3:データ整備(使う情報を整える流れ)
AIに渡す情報を整える工程です。マニュアル、過去の対応記録、商品情報などを集め、古い版や重複を取り除きます。社外に出せない情報の範囲も、この段階で決めておきます。
データが足りない場合も、完璧に揃うまで待つ必要はありません。試験導入に必要な分だけを先に整え、使いながら足していく進め方が現実的です。
ステップ4:試験導入(小さく試して測る基準)
PoC(概念実証。小さく試して効果を確かめる検証)にあたる工程です。対象の部署と期間を絞り、始める前に測る指標を決めます。
- 作業にかかる時間は変わったか
- 出力の修正にどれだけ手間がかかったか
- 現場の担当者が続けて使いたいと感じたか
指標を先に決めておくと、続けるか止めるかの判断がぶれません。
ステップ5:本格展開(ルールと教育で定着させる流れ)
試験導入で効果を確認できたら、対象を広げます。広げる際は、利用ルールと教育をセットで用意します。入力してよい情報、出力を確認する担当、困ったときの相談先を文書にまとめます。
支援の内容はAIによる業務改善の支援にまとめています。課題を決めるところから定着まで、私たちはこの5工程で回しています。
企業のAI導入でよくある失敗・課題と対策
つまずきやすいのは、目的、現場の定着、データ、責任と情報管理の場面です。防ぎ方は、AIの弱点を「待てば解決する弱点」と「待っても残る弱点」に分けると整理できます。
待てば解決する弱点は小さく試しながら待ち、待っても残る弱点は人が先に設計します。AIの性能は更新のたびに上がるため、精度や扱える情報量の不足は時間が味方になります。一方で、目的の設定や責任の所在は、性能が上がっても人が決めるしかありません。
下の図は、この分け方をもとに、対策を小さく試す、先に設計、様子を見る、ルールで補うの4つに整理したものです。

- 小さく試す:待てば解決する弱点のうち、いま効果を得たい業務で取る対策です。範囲を絞って使い始めます。
- 先に設計:待っても残る弱点のうち、影響が大きいものへの対策です。目的と責任を人が先に決めます。
- 様子を見る:待てば解決する弱点のうち、急がない業務で取る対策です。性能の向上を待ちます。
- ルールで補う:待っても残る弱点のうち、運用で抑えられるものへの対策です。利用ルールと確認手順で補います。
目的が曖昧で形骸化する失敗と対策
導入そのものが目的になると、使われないまま形だけが残ります。これは待っても残る弱点で、対策は先に設計です。ステップ1に戻り、困りごとを1つに絞って、測る指標を決め直します。
現場で使われない失敗と対策
導入を決めた部署と使う部署が離れていると、現場の手順に合わず使われなくなります。これも待っても残る弱点で、ルールで補う対策が合います。試験導入の段階から現場の担当者に入ってもらい、使う場面を手順書に書き込みます。
これは、私たちが複数の支援でよく見るパターンです。特定の企業の問題ではなく、導入の進め方から生まれる課題として捉えています。なお、匿名の自社支援記録で第三者未検証の内容です。
データの質と量が不足する課題と対策
データの課題は、待てば解決する部分と残る部分が混ざっています。少ないデータで動く、整っていない文書を読めるといった点は、AIの性能向上で改善が進んでいます。自社にしかない情報を集めて整える作業は待っても残るため、先に設計します。
責任の所在と情報漏えいの注意点
AIの出力に誤りが含まれる可能性と、入力した情報が外に出る懸念は、導入のデメリットとしてよく挙がります。誤りの頻度は待てば下がる見込みがあります。誤ったときに誰が責任を持つかは、待っても決まりません。
対策は、ルールで補う方法です。
- 入力してよい情報と、入力しない情報を決める
- 出力を確認する担当者を決める
- 契約や設定で、入力内容が学習に使われない環境を選ぶ
AI導入を成功させるポイントとAI導入会社の選び方
成功の鍵は目的を絞って小さく試すことで、依頼先は社内に残る力で選びます。どちらも、ツールの機能より先に決めておく事柄です。
AI導入を成功させるポイント
成功のポイントは、5ステップの要所と重なります。
- 目的の明確化:困りごとを1つに絞り、測る指標を決める
- PoCで小さく試す:部署と期間を絞って効果を確かめる
- 社内教育:使い方と利用ルールを現場に伝える
- 効果測定:導入前と同じ指標で比べ、続けるかを判断する
どれも特別な技術ではなく、順番と準備の問題です。中小企業のAI導入でも、対象の業務を絞れば同じ進め方が使えます。
内製・外注・伴走の比較
進め方は、内製、外注、伴走に分かれます。下の図は、立ち上がり、社内に残る力、向く企業、注意点の4行で比べたものです。

- 立ち上がり:内製は遅い、外注と伴走は速い傾向です。人材の確保と学習に時間がかかるかどうかの差です。
- 社内に残る力:内製と伴走は大きい、外注は小さい傾向です。自分たちで運用と改善を続けられるかを指します。
- 向く企業:内製は人材がいる企業、外注は要件が明確な企業、伴走はこれから始める企業に向きます。
- 注意点:内製は属人化、外注は丸投げ、伴走は範囲の合意に気を付けます。
これは一般的な傾向を整理した目安です。どれが適するかは、自社の体制と、導入後に誰が運用するかで変わります。
AI導入会社の選び方の基準
AI導入会社を選ぶときは、入場券とPODを混同しないことが基準になります。入場券は、満たしていて当然の必須条件です。POD(Point of Difference、他社と差が付く条件)は、比較の決め手になる条件を指します。
| 条件の種類 | 確認する項目 | 見方 |
|---|---|---|
| 入場券(必須条件) | 情報管理の体制、実績の開示 | 満たさない会社は候補から外す |
| POD(差の付く条件) | 業務理解、定着支援 | 満たす度合いで比べる |
情報管理や実績は、どの会社も強みとして挙げるため、差が見えにくい項目です。自社の業務をどこまで理解して提案しているか、導入後の定着まで関わるかで比べると、違いが見えてきます。詳しくはAI導入コンサルティングの選び方をご覧ください。
補助金を使う場合の注意点
費用の負担を抑える手段として、国の補助金があります。中小企業向けにはデジタル化・AI導入補助金(2026年9月時点の制度名)があり、対象の経費や申請の要件は公募回ごとに変わります(2026年9月時点)。申請の前に、公式の公募要領で最新の内容を確認してください。詳しくはデジタル化・AI導入補助金の解説をご覧ください。
企業のAI導入でよくある質問
検討中の方から多い疑問は、事例の探し方、依頼範囲、企業規模、着手点、失敗の防ぎ方です。
AIを導入している企業の一覧はどこで確認できますか
決まった一覧があるわけではなく、官公庁の白書と各社の公式発表を組み合わせて確認します。総務省の情報通信白書では、企業のAI利用の傾向を把握できます。個別の事例は、各社のニュースリリースや導入事例のページで確認するのが確実です。業界名に加えて用途の語で探すと、自社に近い事例が見つかりやすくなります。
AI導入会社には何を依頼できますか
業務の棚卸しから、ツールの選定、試験導入、社内教育、定着支援まで依頼できます。会社によって得意な範囲は異なり、開発が中心の会社もあれば、業務の整理から伴走する会社もあります。依頼の前に、自社で担う範囲と任せる範囲を分けておくと、提案を比べやすくなります。
中小企業でもAI導入はできますか
小さく始める前提であれば、中小企業でも導入できます。全社で一斉に始めるのではなく、負担の大きい業務を1つ選び、既存のAIサービスで試す進め方が向いています。意思決定が速く、現場と経営の距離が近い点は、中小企業の利点です。補助金の対象になる場合もあります。
企業のAI導入は何から始めればよいですか
課題を1つに絞り、AIに任せる業務を決めるところから始めます。ツールの比較はその後です。任せる業務が決まれば、必要な機能とデータ、測る指標が決まります。最初の対象は、発生する頻度が高く、手順が決まっている業務を選ぶと、効果を確かめやすくなります。
AI導入の失敗を防ぐには何を先に決めればよいですか
目的、責任の所在、情報の扱いを先に決めます。これらはAIの性能が上がっても解決しない、待っても残る弱点にあたります。精度や処理できる量のように待てば解決する弱点は、範囲を絞って小さく試しながら、性能の向上を待つ進め方で対応できます。
まとめ:企業のAI導入は業務選びから始める
次の一手は、自社の業務を棚卸しして、任せる業務を1つ決めることです。企業のAI導入は、ツールより業務が先です。任せる業務が決まれば、ツール、データ、依頼先の選び方は後から絞られます。
AI導入の進め方の要点と判断の基準
AI導入の進め方を振り返ると、要点は用途で探す、5工程で進む、弱点を分ける、残る力で選ぶの4項目でした。

- 用途で探す:事例は業界ではなく用途で読み替える
- 5工程で進む:課題を決める、業務を選ぶ、データ整備、試験導入、本格展開の順に進める
- 弱点を分ける:待てば解決する弱点は小さく試し、待っても残る弱点は先に設計する
- 残る力で選ぶ:内製・外注・伴走を、社内に残る力で比べる
次に取る行動の手順
棚卸しは、次の順で進めると迷いません。
- 部署ごとに、時間がかかっている業務を書き出す
- 手順が決まっている業務と、判断が必要な業務に分ける
- 最初に任せる業務を1つ決め、測る指標を決める
どの業務から置き換えるか迷う場合は、置き換える業務の無料診断を棚卸しの入口としてお使いください。診断の結果をもとに、任せる業務の候補を絞り込めます。
