広告代理店のAI活用とは?結論:仕事は取られるのではなく線が引き直される
広告代理店の仕事は、AIに取られるのではなく作業と判断の間で線が引き直されています。コピーの案出しや配信の調整は生成AIと媒体の自動機能に移り、何を見せるか・不調をどう診断するかは人が担う、という分け方です。
この記事は、代理店にAI活用を任せてよいか迷う広告主の担当者と、自分の仕事が残るのか気になる代理店側の方に向けて書いています。AIを使ったマーケティング全体の地図は、親記事のAIマーケティングの全体像で整理しました。この記事はその中の「広告代理店」の部分を掘り下げます。
広告業界のAI活用とは:作業はAIへ、判断は人へ
私たち株式会社くるみは、広告主の支援をするとき、代理店の業務を5つに分けてどこまでAIに移すかを決めています。分け方は、制作の量産、配信の調整、効果の分析、戦略と診断、顧客との折衝の5つです。

- 制作の量産:コピー案やバナーを数で出す仕事です。生成AIの得意領域で、すでに機械側に寄っています。
- 配信の調整:入札と予算配分の仕事です。媒体の自動機能がほぼ担います。
- 効果の分析:集計と可視化はAI、数字の読み解きと確認は人が担います。
- 戦略と診断:どこで勝つか、なぜ不調かを決める仕事です。人が担います。
- 顧客との折衝:予算や優先順位の合意をつくる仕事です。人にしかできません。
5つのうち上の2つは作業、下の2つは判断です。真ん中の効果の分析は、作業と判断の境目にあるので、AIと人が分担します。
線が引き直された理由:媒体の自動機能と生成AI
線が動いた理由は2つあります。ひとつはGoogle広告やMeta広告(旧Facebook広告)が、配信と制作の自動機能を標準にしたことです。もうひとつは、生成AIでコピーや画像の下書きを、専門職でなくても量産できるようになったことです。
線の位置は固定ではありません。2026年9月時点の整理でも、媒体の自動機能が更新されるたびに、人の仕事だった部分が機械側へ寄っていきます。だから「取られるか」ではなく「今どこに線があるか」を毎年見直す必要があります。
生成AIで広告業界の仕事はどう変わるか:コピー・デザイン・運用・分析
コピー案出し・バナー量産・入札調整は、2026年9月時点でほぼ機械化されています。効果分析は人の確認付きで進み、企画と折衝は人が担う、というのが現場で見ている線です。
仕事別のAI化度:6項目のチェックリストで判断
私たちが代理店の業務を6項目に分けて評価すると、定型作業ほどAI化が進んでいます。項目はコピー案出し、バナー量産、入札・配信調整、効果分析、企画・戦略、顧客折衝の6つです。

- コピー案出し(◎):生成AIとRSA(レスポンシブ検索広告。見出しと説明文を媒体が組み合わせる形式)で、案出しから配信まで機械が回します。
- バナー量産(◎):サイズ展開や文言の差し替えは、画像生成AIと媒体側の生成機能で量産できます。
- 入札・配信調整(◎):P-MAXやAdvantage+が入札額と配信先を自動で決めます。
- 効果分析(○):集計と可視化はAIが担い、数字の解釈と異常の確認は人が担います。
- 企画・戦略(△):案の壁打ちや競合の整理にAIを使えますが、決めるのは人です。
- 顧客折衝(×):予算・優先順位・リスクの合意は人が担います。
◎の3つは、代理店が人手をかける理由がすでに薄い領域です。○以下に人の時間を寄せられているかが、代理店の使い方の良し悪しを分けます。
媒体の自動機能の違い:P-MAX・Advantage+・RSAが担う範囲
媒体の自動機能は、それぞれ担う範囲が違います。2026年9月時点で私たちが運用で使い分けている3つを並べます。
| 機能 | 媒体 | 自動化する範囲 |
|---|---|---|
| P-MAX(パフォーマンス最大化キャンペーン) | Google広告 | 配信面・入札・広告素材の組み合わせ |
| Advantage+ | Meta広告 | 配信先・予算配分・クリエイティブの組み合わせ |
| RSA(レスポンシブ検索広告) | Google広告 | 見出しと説明文の組み合わせ |
P-MAXは検索・ディスプレイ・動画をまたいで配信面まで自動で選びます。詳しくはP-MAXの仕組みと使いどころで解説しています。Advantage+は配信先と予算配分をMeta広告側に委ねる仕組みで、詳しくはMeta広告のAdvantage+の解説にまとめました。
3つに共通するのは、人が決めていた「誰に、いくらで当てるか」を媒体が引き取った点です。運用画面の操作そのものがどう変わったかは、広告運用のAI化の記事で別に書く予定です。
残る腕の判断基準:クリエイティブがターゲットを連れてくる
配信の自動化が進むほど、「誰に当てるか」は媒体が決めます。だから代理店の腕は「何を見せるか」に寄っていき、クリエイティブがターゲットを連れてくる設計になります。
私たちの運用でも、ターゲティングの細かい設定を触る時間は減りました。その分、どの訴求を見せれば欲しい客層が反応するかを考え、素材の方向を決める時間が増えています。生成AIでの量産はこの判断の後に来る作業です。
大手広告代理店の生成AI活用事例:電通・博報堂・サイバーエージェント
大手代理店は、文案の下書きから工程の再設計まで5段階でAIを使っています。各社の公開事例だけを並べると、進み方の順番が揃って見えます。
電通・博報堂の事例:コピー大量生成とブランドトーン学習
電通は、社内コピーライターの発想を学習させたAIで、多変量テスト向けにコピー案を大量に生成する取り組みを公開しています。案を人が絞り込んで配信し、結果を次の生成に戻す使い方です。工数削減の効果も公表していますが、この記事では数字は転記しません。
博報堂は、広告主ごとのブランドトーン(言葉づかいや世界観のルール)をAIに学習させ、案出しの初稿を揃える方向で公開事例を出しています。人がゼロから書くのではなく、トーンの合った下書きから選ぶ形に変えています。
サイバーエージェント・トヨタの事例:効果予測と制作スタジオ化
サイバーエージェントは「極予測シリーズ」で、配信前にクリエイティブの効果を予測し、当たりそうな案を選んでから配信する仕組みを公開しています。あわせて制作プロセスそのものを組み替え、生成と予測を前提にした制作体制に移しています(サイバーエージェント AIクリエイティブ)。
トヨタは、車種や訴求ごとのバナーを自動生成する取り組みを広告主側の公開事例として出しています。代理店だけでなく、広告主側でも量産が始まっている例です。
5段階の共通パターン:工程の再設計まで進む事例の見方
私たちが各社の公開資料を並べると、文案の下書き、画像・動画量産、配信の自動調整、効果の事前予測、工程の再設計の順に進んでいます。各社の出発点は違っても、到達点は揃っています。

- 文案の下書き:コピーを大量生成し、人が選ぶ形に変える最初の段階です。
- 画像・動画量産:バナーや短尺動画を自動生成し、案の数を増やします。
- 配信の自動調整:入札と予算配分を媒体や自社AIに委ねます。
- 効果の事前予測:配信前に当たりを選び、外れに予算を使わないようにします。
- 工程の再設計:制作を「作ってから試す」から「選んでから作る」スタジオ型に組み替えます。
どの社も最後は制作工程そのものを組み替えています。個別の作業を速くするより、選んでから作る順番に変えるところに投資が向いているのが、公開事例から読める共通点です。
参照した公開資料は次のとおりです。
- サイバーエージェント「AIクリエイティブ」公式ページ(上記リンク)
- 電通、博報堂、トヨタの各社が自社サイトで公開しているニュースリリース
- 日経クロストレンド「ChatGPT&生成AIで広告大変革」特集の報道
広告代理店の仕事はAIに取られるのか:消える仕事・残る仕事
代理店不要論は半分だけ正しく、消えるのは型化しやすく量の多い作業です。日経クロストレンドは、生成AIで「広告代理店不要論」が再燃したと報じましたが、線を引くと残る仕事もはっきりします。
消える仕事・残る仕事の判断基準:型化しやすさ×量の2×2
私たちは、仕事を「型化しやすいか」と「量が多いか」の2軸で4つに分けて線を引いています。取られるのは型化しやすく量が多い象限だけで、残りの3つには人の役割が残ります。

- 型化しやすい×大量(左上):コピー案出しやバナーのサイズ展開です。AIと媒体の自動機能に移ります。
- 型化しやすい×少量(左下):レポートの定型部分や入稿の下準備です。AIで下書きし、人が仕上げます。
- 型化しにくい×大量(右上):日々の異常値の読み解きです。AIが検知し、人が判断します。
- 型化しにくい×少量(右下):不調の一次診断や顧客との折衝です。人が担います。
代理店不要論が指しているのは左上だけです。左上が広告費に対する手数料の大半を占めていた代理店ほど、不要論が刺さります。
人に残る仕事の代表例:広告不調の一次診断
広告が不調なとき、最初に切り分けるのは「比較で負けているのか、比較されていないのか」です。前者なら価格や訴求の見直し、後者なら検索や想起の段階で見つけてもらう設計が必要になり、打ち手がまったく違います。
この切り分けは、管理画面の数字だけではできません。商品の強み、競合の見せ方、検索でどう探されているかの3方向を見比べる診断は、2026年9月時点では人の仕事です。私たちが支援先で不調の相談を受けたときも、管理画面を開く前にこの3方向の確認から始めています。
競合はカテゴリーではなく欲望で決まります。美容皮膚科の競合は隣の美容皮膚科だけではなく、同じ「きれいになりたい」に応える化粧品や美容室にもなり得るからです。
代理店の新しい役割:比較が始まる前に出会う設計
AI検索が普及すると、比較表に載る前に「この問いなら、この会社」と想起される設計が価値を持ちます。管理画面には出ない領域なので、ここも人が担う新しい役割です。
比較が始まる前に出会う考え方は、LLMO対策会社の選び方で詳しく整理しています。AI検索そのものに広告が入る動きは、ChatGPT広告の現状にまとめました。代理店の生き残りは、この2つを扱えるかどうかにかかっていると私たちは見ています。
AI時代の広告代理店の選び方と、私たちの回し方
見極めの軸は、生成AIで量産できるかではなく、実成果まで追って診断できるかです。2026年9月時点では、量産はどの代理店でもできる入場券になっています。
従来型・AI導入型・AI×計測型の比較
私たちは代理店を、従来型、AI導入型、AI×計測型の3つに分けて見ています。行ごとに、制作の量、配信後の学習、判断の主体、向く広告主がどう違うかを並べます。

- 制作の量:従来型は人数に比例し、AI導入型とAI×計測型はAIで量産します。ここでは差が付きません。
- 配信後の学習:従来型は月次報告、AI導入型は管理画面CV、AI×計測型は実成果まで追います。差が付くのはこの行です。
- 判断の主体:従来型は担当者の勘、AI導入型はAIの提案、AI×計測型は人が診断します。
- 向く広告主:従来型は大型案件、AI導入型は量を回す広告主、AI×計測型は成果で選ぶ広告主に向きます。
生成AIでの量産は2026年9月時点で必須条件、いわば入場券です。差が付くのはPOD(Point of Difference、他社との違いになる点)で、それは実成果まで追う計測と診断です。
管理画面のCVと実成果の差:計測の実例
私たちが支援した美容皮膚科1院で、2026年6月に管理画面のCVと実成果を突き合わせました。媒体の管理画面上のCV200件に対し、予約は89件(44.5%)、実来院は75件でした。媒体によっては、管理画面のCV68件に対し実来院が1件という差もありました。
匿名の自社支援記録で第三者未検証ですが、管理画面の数字だけで媒体を評価する危うさは伝わると思います。実来院まで追っていなければ、来院1件の媒体に予算を積み増していたはずです。
代理店を見極めるときは、次の質問で計測の深さが分かります。
| 質問 | 見極めたい答え |
|---|---|
| 成果はどの数字で見ますか | 管理画面のCVではなく、予約や来院など事業側の数字 |
| 不調のときは何から見ますか | 入札や予算ではなく、商品・競合・検索の切り分け |
| 勝ちパターンはどう次に活かしますか | 言語化してブリーフに反映する手順がある |
任せた後の回し方:くるみバディ広告学習ループの手順
私たちは「くるみバディ」で、配信結果を次の制作に戻す学習ループを次の手順で回しています。
- 配信結果を定性コーディングする(どの訴求・どの見せ方が反応したかを言葉で分類する)
- 勝ちパターンを言語化する
- 次のブリーフへ反映する
- 生成AIでコピーとバナーを生成する
- 人がレビューする
- 入稿する
量産は4の1工程だけで、それ以外は計測と判断の工程です。ループ全体の考え方はマーケティング支援の紹介ページにまとめています。広告最適化の実務は、広告最適化の記事で別に書く予定です。
私たちはこの手順で回しています。
広告代理店とAIに関するよくある質問
派生語で聞かれる疑問に、1問1答で答えます。
広告代理店の仕事はAIに取られる?
型化しやすく量の多い作業は移ります。コピー案出し、バナー量産、入札調整は2026年9月時点でほぼ機械化されています。一方で、不調の一次診断(比較で負けているのか、比較されていないのか)と顧客との折衝は人に残ります。取られるかではなく、どこに線があるかを見る問いです。
AI広告会社と従来の広告代理店の違いは?
違いは量産の主体と計測の深さの2点です。AI広告会社は制作をAIで量産し、配信も自動機能に委ねます。従来の代理店は人数に比例して制作します。ただし量産は入場券で、差が付くのは管理画面のCVで止まるか、予約や来院など実成果まで追うかです。名前より計測の深さで見比べてください。
生成AIで広告業界は今後どう変わる?
制作工程の再設計と、代理店の収益モデルの変化が進みます。大手の公開事例は、作ってから試す工程を、効果を予測して選んでから作る工程に組み替える方向で揃っています。作業量に比例した手数料は成り立ちにくくなり、診断と計測に対する対価へ移っていくと私たちは見ています。
代理店なしでAIだけで広告運用はできる?
配信そのものは媒体の自動機能で回ります。P-MAXやAdvantage+に予算と素材を渡せば、入札と配信先は機械が決めます。ただし不調になったとき、商品・競合・検索の3方向から原因を切り分ける診断は人が要ります。自社で診断できるなら代理店なしでも回り、できないなら診断だけ外に頼む形が現実的です。
広告代理店の若手は、AI時代に何を身につければよい?
量産の速さではなく、診断と折衝の力です。生成AIで案を出す作業は誰が担っても差が付きにくくなりました。差が出るのは、数字を見て「比較で負けているのか、比較されていないのか」を切り分け、広告主と次の打ち手を合意する力です。管理画面の外にある商品・競合・検索を見る習慣が、残る仕事への近道になります。
まとめ:AIで代理店は消えない、任せる線を引き直す
作業はAIへ、判断は人へ。任せる線を引き直せば、広告代理店は消えません。消えるのは型化しやすく量の多い作業で、診断と折衝は2026年9月時点でも人の仕事です。
結論の再掲:代理店の仕事は5つに分けて線を引く
私たちが支援で使っている分け方は、制作の量産、配信の調整、効果の分析、戦略と診断、顧客との折衝の5つです。この5つのどこに線を引くかが、代理店にAI活用を任せるときの判断そのものになります。

- 制作の量産:AIに移す作業です。
- 配信の調整:媒体の自動機能に移す作業です。
- 効果の分析:集計はAI、確認は人に残します。
- 戦略と診断:人に残す判断です。
- 顧客との折衝:人に残す判断です。
次の一手:自社の広告業務を5つに仕分けする
読者の次の一手は、自社の広告業務をこの5つに仕分けし、AIに移す作業と人に残す判断を決めることです。代理店に任せている業務も、社内で回している業務も、同じ5つの箱に入れて見ると線が見えます。
仕分けを一緒にやる入口として、私たちはAIおきかえくんを用意しています。現在の業務を書き出し、AIに置き換える作業と人に残す判断を分けるところまでを、短い時間で整理する仕組みです。広告業務の全体像から見直したい方は、親記事のAIマーケティングの全体像から読み直していただくのもおすすめです。
広告代理店との付き合い方や、AIに移す作業の線引きについて相談したいことがあれば、お問い合わせフォームからご連絡ください。状況をお聞きしたうえで、私たちの支援先で見てきた線の引き方をお伝えします。



